大和茶とは、奈良県の大和高原を中心にした地域で栽培されているお茶で、奈良県のブランド茶としても知られています。
宇治茶や掛川茶と比較すると知名度は低いですが、奈良県のお茶生産量は全国で7位と産地としては規模が大きいです。
本記事では、知られざる大和茶の魅力とその特徴について解説いたします。
大和茶とは?
大和茶は奈良県内の奈良市山添村や月ヶ瀬(つきがせ)や田原を中心に、宇陀市・大淀町・東吉野村などで栽培されているお茶です。厳密には、産地ごとに月ヶ瀬茶、福住茶、柳生茶、山添茶と呼称が異なります。
これらの地域は、良質な茶の栽培に適している寒暖差が激しい冷涼な気候、豊富な水源といった条件を満たしており、古くから茶の栽培が奨励されてきた土地です。
多くの茶園が標高200~500mの高冷地に位置しています。高冷地で栽培されるお茶は茶葉がゆっくりと生育するため、香り高く滋味深い味わいになるのが特徴です。
大和茶の歴史
大和茶の歴史は古く、今から1200年前に始まったとされています。
大同元(806)年に弘法大師(空海)によって唐からもたらされたお茶の種子を、高弟である堅恵(けんね)に与えました。
その種子を仏隆寺の山内に「苔の園」という茶園を造り、蒔いたのが大和茶の始まりと伝えられています。
また、弘法大師は唐の皇帝である徳宗から拝受した石製の茶臼も持ち帰ったとされていて、その茶臼は現在も仏隆寺で寺宝として大切に保管されています。
大和茶の味の特徴
大和茶が育つ農地は標高200~500m、平均気温は13~15度、降雨量1500mmの山間冷涼地であるのに加えて日照時間が短く、寒暖差も激しいです。
そしてもう1つ良質なお茶の生育に欠かせないのが土壌です。大和高原一帯は粘土層の地質であり、土がミネラルを多く含んでいます。
このように厳しいながらも恵まれた自然条件で生育した大和茶の味は、渋みがありながらも、すっきりとさわやかな風味を持ちます。
大和茶の生産量と値段相場
令和元年茶種別生産実績によれば、奈良県全体の生産量総計は1,685tで全国で7位です。
一般的な煎茶をはじめ、収穫前に7日間程度遮光して育てたかぶせ茶、玉露と同様に栽培した生葉を揉まずに乾燥したてん茶、硬くなった新芽や茎などから作られる番茶なども生産されています。
大和茶の平均的な価格ですが、玉露・煎茶ともに100gで1,200~2,000円程度の価格帯を中心に、手軽に飲めるペットボトルのお茶は(500ml)150円前後で販売されています。
参照:令和元年茶種別生産実績
大和茶の品種
大和茶の品種は以下の2種類です。
やぶきた
漢字で「藪北」と書きます。農林水産省に登録されているお茶の品種は100以上ありますが、実際に日本国内で栽培されている約75%がこのやぶきたです。
やまとみどり
奈良在来種から選抜して誕生した品種です。濃緑な色と温和な香りが特長です。奈良県農試茶業分場(現奈良県大和茶研究センター)が育成し、1953年に命名・登録されました。
被覆栽培を行わずに栽培できる「天然玉露」として名高いですが、奈良県内でも栽培している茶園が少なく、ほとんど市場に出回らない希少品種です。
新茶の時期は?
高冷地である大和高原一帯の新茶収穫期は、日本全国の茶どころと比べると遅いです。
通常、新茶の収穫時期は5月2日前後ですが、冷涼地で栽培される大和茶は生育が遅く、一番茶の収穫が6月に行われることもあります。4月上旬から収穫がはじまる鹿児島県とは、収穫の時期に大きく違いがあることがわかりますね。
収穫時期を迎えるとやわらかく透けるような黄緑色の新芽が、高原一帯に広がる茶畑を美しく彩ります。
摘み取り作業の12日ほど前から寒冷紗(黒いネット)を被せて遮光することで、茶葉が鮮やかな緑色になります。旨み成分のテアニンが渋み成分のカテキンに変化せずに多く残るため、甘みの強いまろやかなお茶に仕上がります。
大和茶のおいしい入れ方
1人1さじを目安に人数分の茶葉を入れ、その後急須に70度のお湯を入れます。
煎茶の浸出時間は1分半程度ですが、大和茶よりおいしく味わうため、少しだけ長めに煮出します。
雑味が出ないよう、急須を揺らさずにそっと人数分の茶碗に回し注ぎし、最後の一滴まで注ぎきったら完成です。
大和茶は深みがあるため、5煎目くらいまではおいしくいただけます。乾煎りした玄米を少量加えて、玄米茶として楽しむ方法もあります。
残った茶葉はそのまま軽く岩塩をかけて食べたり、鰹節と醤油をかけて茶殻のおひたしにしたり、ポン酢で食べるのもおすすめです。
さらに乾燥させてミキサーで粉砕してお茶漬けのアクセントにしてもOKです。茶葉も余すところなくいただけるのが上質なお茶の良いところです。
まとめ
大和茶の歴史はもちろん、希少価値の高さから「知る人ぞ知るおいしいお茶」として愛されています。
大和茶の特徴である、すっきりとした風味と淹れた瞬間から広がる香りの良さは、朝晩の寒暖差が激しい気候、豊富な水源、肥沃な大地という条件の元、日々おいしいお茶作りに精進する生産者の努力の賜物です。
「あおによし 奈良の都は 咲く花の におうがごとく 今さかりなり」
奈良の都が育んできた歴史と文化に想いを馳せながら、おいしいお茶を一服いただきつつ、おうち時間の充実に役立ててみてはいかがでしょうか。
清々しい香りとやわらかな風味が特徴の大和茶は、何かと忙しい現代人の心と身体をゆるりと溶きほぐしてくれることでしょう。
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